頭頸部癌の分子病態の解明と病理診断への応用

頭頸部グループ

研究内容

2015年12月13日公開　2020年6月10日更新

頭頸部には口腔、咽頭、喉頭、鼻副鼻、唾液腺、甲状腺、リンパ節、骨などがあり、それぞれに特徴の異なる癌や腫瘍が発生します。我々はそれらの発生や悪性化のメカニズムを分子・遺伝子のレベルで探索し、より的確な分類や病理診断を構築し、将来的にはよりよい治療につながることを目指して研究しています。

1. 唾液腺癌の研究

1. EGFR, HER2は唾液腺癌の悪性度に関与する（唾液腺導管癌、多形腺腫由来癌、粘表皮癌）

唾液腺に最も多く発生する良性腫瘍である多形腺腫は、まれに悪性転化し、多形腺腫由来癌と呼ばれます。中でも唾液腺導管癌という悪性度の高い癌へと変化すると予後不良で治療に難渋します。多形腺腫由来癌ではS100P蛋白が過剰発現し、HER2やEGFRの遺伝子コピー数が増加していますが、HER2, EGFR両方が増加している腫瘍群が最も予後が悪いことを我々は世界で初めて報告しました。一方、高悪性度の粘表皮癌では相互排他的にHER2, EGFRいずれかのコピー数が増加しており、低中悪性度の粘表皮癌ではいずれもありませんでした。

2. 腺様嚢胞癌と基底細胞腫瘍の鑑別にβ-catenin核内発現とMYB融合遺伝子の組み合わせが有用

腺様嚢胞癌は局所浸潤性が強く、しばしば再発し、予後不良の癌です。組織学的には篩状構造を特徴としますが、基底細胞腺腫や多形腺腫など良性腫瘍でも類似した組織像を呈することがあり、診断が難しいことも稀ではありません。つまり、臨床的にも病理学的にも扱いが難しい唾液腺癌の一つです。最近、腺様嚢胞癌の多くが、MYBなどの融合遺伝子を有することがわかってきました。我々は免疫染色でβ-cateninの核内発現が基底細胞腺腫に特徴的であること、腺様嚢胞癌ではβ-catenin核内発現は極めて稀で、MYB融合遺伝子の存在との組み合わせで非常に精度高く鑑別できることを報告しました。

2. HPV関連癌の研究

1. HPV感染とEGFR遺伝子コピー数増加は中咽頭癌の悪性度の指標である

扁桃など中咽頭に発生する扁平上皮癌の中でもヒトパピローマウイルス(HPV)が感染している癌には放射線・化学療法がよく効きます。一方、頭頸部扁平上皮癌ではEGFRに対する分子標的治療が広まってきていますが、どの患者さんに使用するべきなのか、分子異常に基づく明確な指標がありません。我々は、中咽頭癌はHPV陽性・EGFR陰性(グループ1), HPV陰性・EGFR陰性(グループ2), HPV陰性・EGFR陽性(グループ3)の3群に分けられ、グループ3が最も予後不良であることを見いだしました。この結果は分子異常による亜型分類(molecular subtyping)が中咽頭癌の予後予測になるのに加え、EGFR標的治療の選択におけるバイオマーカーとなる可能性を示唆しています。

3. まとめ

我々は頭頸部癌の分子異常をさらに詳細に探索し、診断精度の向上や個別化治療(precision medicine)の発展に貢献していきたいと思います。

参考文献：

• Hashimoto K, Yamamoto H et al. S100P expression in ductal type of carcinoma ex pleomorphic adenoma. Am J Surg Pathol. 2011;35(3):346-55.
• Hashimoto K, Yamamoto H et al. HER-2/neu gene amplification in carcinoma ex pleomorphic adenoma in relation to progression and prognosis: a chromogenic in-situ hybridization study. Histopathology. 2012;60(6B):E131-42.
• Nishijima T, Yamamoto H, et al. Dual Gain of HER2 and EGFR Gene Copy Numbers Impacts the Prognosis of Carcinoma ex Pleomorphic Adenoma. Hum Pathol. 2015;46(11):1730-43.
• Nakano T, Yamamoto H, et al. HER2 and EGFR gene copy number alterations are predominant in high-grade salivary mucoepidermoid carcinoma irrespective of MAML2 fusion status. Histopathology. 2013;63(3):378-92.
• Nakano T, Yamamoto H, et al. Molecular subclassification determined by human papillomavirus and EGFR status is associated with the prognosis of oropharyngeal squamous cell carcinoma. Hum Pathol. 2016;50:51-61.
• Sato M, Yamamoto H, et al. Wnt/β-catenin signal alteration and its diagnostic utility in basal cell adenoma and histologically similar tumors of the salivary gland. Pathol Res Pract. 2018;214(4):586-592.